情報システム部門が把握していないAIツールが、社内で使われています。部門が独自に契約したサービス、担当者が個人アカウントで使っている生成AI、業務ツールに後から追加されたAI機能。これらをまとめてシャドーAIと呼びます。
存在自体は珍しくありません。問題は、把握していないことです。どのデータがどこへ行っているかを説明できない状態では、情報漏えいも法令違反も、起きてから知ることになります。
禁止から入ると把握できなくなる
最初の判断は、禁止するか把握するかです。
全面禁止は、実務上ほぼ機能しません。禁止しても使用がゼロになるのではなく、申告されなくなるだけだからです。私物端末や個人アカウントでの利用に移り、管理下から完全に外れます。禁止する前より状況が悪くなります。
先に把握します。何が使われているかを洗い出し、そのうえで許容するもの・条件付きで認めるもの・止めるものを分ける。この順序を逆にすると、洗い出しの段階で情報が出てきません。
棚卸しを始めるときは、「申告しても咎めない」と明示することです。過去の利用を問わないと先に宣言しておかないと、正直に申告した人だけが不利益を受ける構図になり、次から誰も申告しなくなります。
台帳に載せる項目
AI利用台帳(AIインベントリ)は、AIごとに次の項目を持たせます。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| サービス名・提供者 | 製品名と提供事業者。国内/国外の別 |
| 利用部門・利用者 | 部署単位と、責任者の氏名 |
| 契約形態 | 法人契約/部門契約/個人契約/無償版 |
| 対象業務 | 何の作業に使っているか |
| 入力するデータ | 個人データを含むか。含む場合はその種別 |
| データの処理場所 | 国内リージョンか、国外か |
| 学習利用の有無 | 入力データがモデルの学習に使われる設定か |
| 出力の使い道 | 社内限りか、顧客へ提出するか |
| 人による確認 | 誰がどの段階で確認しているか |
| 承認状況 | 承認済/条件付き/未承認/停止 |
| 最終確認日 | 台帳の記載を最後に確認した日 |
このうち実務で効くのは「学習利用の有無」と「データの処理場所」です。この2つが決まると、個人情報保護法上の扱いが決まります。労務データを海外サービスに渡す場合の論点は労務データを国外に出さないという選択で整理しました。
「最終確認日」を入れるのは、台帳が古くなるためです。サービスの規約も設定の既定値も変わります。1年前に確認した内容が今も同じとは限りません。確認日が入っていない台帳は、どの記載が信用できるか判断できません。
棚卸しの進め方
洗い出しは、3つの経路を組み合わせます。
申告。 部門ごとにアンケートを配ります。「AIツールを使っていますか」ではなく、「文章の作成・要約・翻訳・議事録・画像生成・コード作成に、何かサービスを使っていますか」と具体的な作業で聞きます。前者の聞き方だと、本人がAIだと認識していないツールが落ちます。
支出。 経費精算とクレジットカードの明細から、SaaSの支払いを抽出します。申告漏れがここで拾えます。月額数千円のサービスは、申請なしで個人立替になっていることがあります。
通信。 端末やネットワークのログから、AIサービスのドメインへの通信を確認します。前の2つで出てこなかったものが見つかります。
3経路で突き合わせると、申告だけの場合の2倍前後の件数になることが多くあります。1回目の棚卸しでは、想定外のサービスが必ず出てきます。
申請・承認フローを台帳とつなぐ
一度作った台帳は、放っておくと古くなります。新しいツールは毎月出てくるためです。
台帳を維持するには、新規導入の入口を1本にします。
- 利用者が申請フォームに、台帳と同じ項目を入力する
- 情報システムまたは管理責任者が、データの種別と処理場所を見て可否を判断する
- 承認したものだけが台帳に載り、利用が始まる
- 定期的に台帳を見直し、使われなくなったものを落とす
申請フォームの項目を台帳の項目と揃えておくと、承認と同時に台帳が更新されます。別々に作ると、承認は出ているのに台帳に載っていない状態が生まれます。
当社でも、AIツールの利用申請を承認制にしたうえで台帳と連動させる運用に切り替えました。切り替えの過程で分かったのは、承認フローを作ること自体より、「申請せずに使うと台帳に載らない」という状態を作らないほうが難しいという点でした。入口が複数あると、必ずどこかから漏れます。
台帳が使える場面
台帳の効果は、社内統制以外の場面で出ます。
取引先からの照会。 契約前のセキュリティ審査で、AIの利用状況を問われる機会が増えています。台帳があれば、その場で回答できます。都度調べて回答すると数日かかり、その間、審査が止まります。
規格対応。 AIマネジメントシステムの国際規格ISO/IEC 42001は、AI利用の把握を管理策として求めます。台帳はそのまま証跡になります。詳細はISO/IEC 42001とは何かで扱いました。
取締役の説明責任。 AIに起因する不具合が起きたとき、体制を整えていたことを示す資料になります。この論点はAIの誤りは誰の責任かで整理しています。
まとめ
シャドーAIへの対応は、禁止ではなく把握から始めます。禁止が先に立つと、利用が地下に潜って管理不能になります。
台帳に載せる項目のうち、判断を左右するのは「入力するデータの種別」「処理場所」「学習利用の有無」の3つ。この3つが埋まれば、そのAIを使ってよいかどうかが決まります。
台帳は作って終わりではなく、申請・承認の入口とつないで初めて維持されます。作成に1か月かけるより、項目を絞って先に運用を始め、精度を上げていくほうが早く形になります。
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