賞与計算と賞与支払届——「率の取り違え」が起きる3つの構造

賞与計算と賞与支払届——「率の取り違え」が起きる3つの構造

夏季賞与の支給が終わると、賞与支払届の提出と保険料の確定が続きます。賞与の計算は月次給与と手順が似ているようで、参照する数字と適用するルールが別物です。この「似ているが違う」という構造が、誤りの温床になります。

誤りが集中するのは3か所です。標準賞与額の上限管理、源泉所得税の率の求め方、そして届出のタイミング。順に見ていきます。

目次

1. 標準賞与額の上限は健保と厚年で単位が違う

賞与にかかる社会保険料は、支給総額から1,000円未満を切り捨てた「標準賞与額」に保険料率を掛けて算出します。ここまでは月次と同じ発想ですが、上限の設定が異なります。

健康保険の上限は、年度累計で573万円。 年度は4月1日から翌年3月31日までです。夏と冬の2回で判定するのではなく、その年度に支給したすべての賞与を積み上げて判定します。

厚生年金保険の上限は、1か月あたり150万円。 累計ではなく月単位です。同じ月に2回以上支給した場合は合算して上限を当てます。

累計と月単位。この違いが、年度をまたぐ管理を必要にします。夏の賞与で上限に達していなくても、冬の賞与を加えた累計が573万円を超えれば、超過分に健康保険料はかかりません。年度の途中で入社した従業員については、前職での累計が引き継がれる場合があり、本人からの申出に基づく処理が必要になります。

給与システムの標準機能で年度累計を管理していない場合、この判定が抜けます。抜けても保険料は「多めに」控除されるだけなので、エラーとしては現れません。従業員からの指摘で発覚することになります。

2. 源泉所得税は「前月の給与」を見る

賞与の源泉所得税は、月次給与とはまったく別の手順で求めます。

前月に支払った給与から社会保険料等を控除した金額と、扶養親族等の数。この2つを「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」に当てて税率を求め、賞与から社会保険料等を控除した金額に掛けます。賞与そのものの金額から税率を引くのではありません。

ここで起きる取り違えが3つあります。

  • 前月の給与を、社会保険料控除前の額で見てしまう
  • 前月に給与の支払がない従業員(休職明け、入社初月に賞与を支給するケース)で、通常の表をそのまま使ってしまう
  • 前月の給与の10倍を超える賞与を支給する場合の特例計算を適用し忘れる

3つとも、月次給与の感覚で処理すると起きます。前月給与がない場合と、賞与額が前月給与の10倍を超える場合は、月額表を使う別の計算方法が定められています。年に2回しか使わない手順のため、担当者が変わると引き継がれにくい部分です。

3. 届出は支給日から5日以内、不支給でも報告が要る

賞与を支給したら、支給日から5日以内に「健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届」を提出します。月次の手続きと比べて期限が短く、支給日の直後に作業が発生します。

見落とされやすいのは、支給しなかった場合の扱いです。賞与支払予定月として登録している月に賞与を支給しなかったときは、「賞与不支給報告書」の提出が必要になります。「支給していないから何もしない」では手続きが完了しません。

もう一つ、資格喪失月に支給した賞与の扱いがあります。退職などで資格を喪失した月に支払われた賞与からは、社会保険料を控除しません。ただし健康保険の年度累計573万円を管理するため、賞与支払届そのものは提出することになります。保険料がかからないことと、届出が不要であることは別です。

誤りの見つけ方

上の3か所は、いずれも「金額が異常に見えない」という共通点があります。上限判定の漏れは保険料が多めに出るだけ、税率の取り違えは年末調整で精算される、届出漏れはしばらく気づかれない。単体の数字を眺めても違和感が出ません。

検出するには、別の経路で出した数字と突き合わせるしかありません。

  • 年度累計の標準賞与額を再計算し、573万円を超える従業員がいないか全件で確認する
  • 賞与の控除額を、標準賞与額×料率で独立に計算し直し、システムの控除額と照合する
  • 前月の給与(社会保険料控除後)と扶養親族等の数から税率を引き直し、源泉税額を検算する
  • 賞与支払予定月として登録した事業所すべてについて、届出または不支給報告の提出状況を確認する

いずれも判定条件が明確で、人の解釈が入りません。全件に当てる処理として仕組みに載せられます。当社では給与計算の検証をチェック項目単位でルール化し、結果を人が確認する運用にしています。この設計の背景は給与計算BPOの品質はどう担保する?で述べています。

なお、賞与も標準賞与額をベースに子ども・子育て拠出金と支援金の対象になります。この2つの制度の違いは算定基礎届 2026で整理しました。

まとめ

賞与計算の誤りは、月次給与の手順を流用したところに出ます。標準賞与額の上限は健保が年度累計・厚年が月単位、源泉所得税は前月の給与から率を求める、届出は5日以内で不支給でも報告が要る。この3点は、年に2回しか実行しないために手順が定着しにくい部分です。

年2回の作業だからこそ、手順を人の記憶に置かず、検算まで含めて仕組みに書いておく価値があります。担当者の交代でも精度が落ちません。

参考:従業員に賞与を支給したときの手続き(日本年金機構)


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