令和8年度の算定基礎届の提出期間は、2026年7月1日(水)から7月10日(金)です。健康保険法41条と厚生年金保険法21条が「7月10日まで」と定めており、今年は金曜日にあたるため期限の延長はありません。
ここで決まった標準報酬月額が、その年の9月分から翌年8月分まで適用されます。誤ったまま確定すると、社会保険料が1年間ずれ続けます。月額変更届で是正するには2等級以上の差という要件があるため、小さなずれほど翌年まで残ります。
誤りが生まれる場所は決まっている
算定基礎届で発生する誤りは、毎年ほぼ同じ場所に出ます。180社超のBPO実務で繰り返し見てきた範囲では、次の5つに集約できます。
支払基礎日数の判定。 月給者は暦日数、時給・日給者は出勤日数。17日未満の月は算定対象から除きます。短時間労働者は11日が基準になり、短時間就労者(パート)は17日未満の月しかない場合に15日以上の月で算定します。この3種類の基準が混在する事業所で、区分の当て方が1人分ずれるパターン。
除外対象者の判定。 6月1日以降に資格取得した人、6月30日以前に退職した人、7月・8月・9月に月額変更届を提出する予定の人、休職中で報酬が支払われていない人。この4パターンは算定基礎届の対象から外れますが、給与システムの在籍者リストをそのまま使うと混ざります。
報酬に含める範囲。 通勤手当は含める、現物給与も含める、見舞金など臨時に受けるものは含めない。年3回以下の賞与は含めず、年4回以上支給される賞与は報酬に含める。この境目の判断が、手当の新設時に検証されないまま流れます。
遡及支払額の分離。 昇給が遡って支払われた月は、その差額分を除いて算定します。差額欄の記入漏れは、報酬月額を過大にします。
4月・5月・6月の切り出し。 支給月ベースか、勤務月ベースか。締め日と支払日がずれている事業所では、どの3か月を取るかが毎年の論点になります。
機械で潰せるもの
上の5つのうち、支払基礎日数の判定、除外対象者の抽出、遡及支払額の検出は、ルール化できます。データさえ揃っていれば、判定条件が明文化できるためです。
- 雇用区分ごとに基礎日数の基準値を割り当て、17日/15日/11日のいずれで判定すべき人かを全件に付与する
- 資格取得日・退職日・月額変更届の予定・休職期間から、除外すべき対象者を機械的に抽出する
- 4〜6月の支給額に、前月以前の勤務に対する支給が混ざっている行を検出する
- 前年の標準報酬月額と今年の算出値を比較し、等級が3等級以上動いた人を異常候補として挙げる
最後の「等級が大きく動いた人を挙げる」は、誤りの検出そのものではありません。昇給や勤務形態の変更で正当に動くこともあります。挙げたうえで人が理由を確認する、という使い方になります。
当社が給与計算の検証プロセスで特許を出願しているのは、この「機械が異常候補を挙げ、人が根拠を確認する」という工程そのものです。考え方は百社超の実務データが教える、AI活用の「成否を分けるもの」で述べています。
機械で潰せないもの
報酬に含める範囲の判断は、自動化しきれません。
理由は、手当の名称と実質が一致しないためです。「〇〇手当」という名前だけでは、労働の対償として経常的に支払われるものか、臨時の恩恵的給付かを決められません。同じ名前の手当が、A社では報酬に含まれ、B社では含まれないことが起きます。判断の根拠は就業規則と賃金規程、そして実際の支給実績にあります。
4〜6月をどう切り出すかも同様です。締め日と支払日の関係、賃金規程上の支給対象期間、過去の届出との整合。これらを見たうえで会社ごとに決めるもので、汎用のルールでは決まりません。
企業ごとの固有ルールが自動化の壁になる構造については、freee・SmartHRだけでは自動化が止まる理由で扱いました。算定基礎届はその典型例です。
令和8年度に間違えやすい点:支援金と拠出金
今年から新しく紛らわしくなったのが、子ども・子育て支援金と子ども・子育て拠出金の関係です。
子ども・子育て拠出金は従来からある制度で、率は0.36%。事業主のみが負担し、厚生年金保険料と併せて徴収されます。標準報酬月額と標準賞与額が対象です。
子ども・子育て支援金は令和8年4月に始まった新しい制度で、被用者保険の令和8年度の支援金率は0.23%。医療保険料と併せて徴収されます。
名前が似ていて、どちらも子育て支援の財源で、どちらも標準報酬をベースにします。違うのは負担者と徴収経路です。支援金制度が始まっても拠出金は廃止されないため、両方が並存します。控除項目の設定を1つにまとめてしまうと、事業主負担と労使折半が混ざります。
7月10日までの進め方
- 6月中に対象者リストを確定させる(除外4パターンを先に外す)
- 雇用区分ごとの支払基礎日数の基準を、区分マスタに紐づけて全件に当てる
- 遡及支払のあった行を抽出し、差額欄への記入対象を確定する
- 算出した標準報酬月額を前年と比較し、等級が大きく動いた人の理由を確認する
- 労働保険の年度更新(7月10日締切)と作業が重なるため、年度更新は6月中に片づけておく
まとめ
算定基礎届の誤りは、判定条件が決まっているものと、会社ごとの解釈が要るものに分かれます。前者は全件に機械で当てたほうが速く、漏れません。後者は根拠資料にあたる必要があり、時間をかける価値があります。
この切り分けをせずに全件を人が見ると、判定条件を当てるだけの作業に時間を使い、判断が要る数十件に十分な時間が残りません。9月分から1年間適用される数字だからこそ、確認の時間配分が結果に出ます。
お問い合わせ: WorkRulesアーキテクチャーズ株式会社
AIエージェント特化型|BPO契約企業180社超|SRPⅡ認証取得|特許出願済み10件

