9月末は退職の集中する時期です。上期の区切りで区分が変わり、10月入社の受け入れと重なるため、給与担当の作業量が一気に増えます。
この時期に発生する誤りは、金額の計算違いよりも「どの月に属するか」の取り違えに寄っています。保険料が1か月分多い、住民税を一括で引いてしまった、源泉徴収票の交付が遅れた——いずれも退職日と月の対応を1段ずらしたことが原因です。
1. 資格喪失日は退職日の翌日
健康保険法第36条と厚生年金保険法第14条は、事業所に使用されなくなった日の翌日に被保険者資格を喪失すると定めています。退職日そのものではありません。
そして保険料は、資格を喪失した月の前月分までが発生します(厚生年金保険法第19条第1項、健康保険法第156条第3項)。この2つを重ねると、退職日が月末かどうかで結果が分かれます。
- 2026年9月30日退職 → 資格喪失日は10月1日 → 喪失月は10月 → 9月分の保険料が発生する
- 2026年9月29日退職 → 資格喪失日は9月30日 → 喪失月は9月 → 9月分の保険料は発生しない
標準報酬月額30万円の従業員で、健康保険料率を労使合計10.00%と仮定し、厚生年金保険料率18.3%(厚生年金保険法第81条第4項)で計算すると、本人負担は健康保険15,000円、厚生年金27,450円、合計42,450円です。退職日を1日ずらすだけで、この額が動きます。
健康保険料率は都道府県ごとに毎年改定されるため、実務では自社の適用料率で計算し直してください。厚生年金保険料率は2017年9月以降18.3%で固定されています。
2. 最後の給与で何か月分を控除するか
事業主が報酬から控除できるのは前月分の保険料です(健康保険法第167条第1項)。この規定どおり翌月控除で運用している会社が多数です。
翌月控除の会社が9月30日退職者を処理する場合、9月分の保険料は本来10月支給の給与から控除します。ところが9月30日退職なら10月に支給する給与がありません。そこで9月支給の給与から8月分と9月分をまとめて控除します。「月末退職は2か月分引かれる」と言われるのは、この控除タイミングの話であって、保険料が2か月分増えるわけではありません。
当月控除で運用している会社は、9月支給の給与で9月分を控除して終わりです。同じ退職日でも、控除方式によって最後の手取りが42,450円変わります。控除方式は賃金規程に明示しておく項目で、退職者への事前説明を抜くと給与明細を見た本人から問い合わせが来ます。
定時決定で9月分から標準報酬月額が改定される年は、改定後の額で9月分を計算します。改定額をどの月の給与に反映させるかは、9月分から社会保険料が変わる——定時決定の反映で毎年起きる4つの取り違えで整理しています。
3. 同月得喪は健康保険と厚生年金で扱いが違う
入社した月のうちに退職した場合(同月得喪)、2つの制度で結論が分かれます。
健康保険法第156条第3項が保険料を算定しないと定めているのは「前月から引き続き被保険者である者」です。入社月に退職した人はこれに当たらないため、その月の保険料が1か月分発生します。
厚生年金は、同月得喪の月を被保険者期間に算入すると定めた上で、その月に国民年金の第1号被保険者などの資格を取得したときを除いています(厚生年金保険法第19条第5項)。この場合の厚生年金保険料は納付を要さず、納付済みであれば還付されます。還付の通知は退職から数か月後に届くため、本人負担分を控除して精算を終えた会社には返金の手続きが残ります。
短期離職が続く職場では、この処理が毎月発生します。資格取得と資格喪失の届出義務は健康保険法第48条・厚生年金保険法第27条にあり、提出期限はいずれも事実発生から5日以内です。届出の電子化がどこまで進んだかは2026年 社会保険の電子申請はここまで進んだにまとめました。
4. 住民税と所得税は退職した月で処理が変わる
住民税の特別徴収は、地方税法第321条の5第2項が退職時の扱いを定めています。
| 退職した時期 | 残額の扱い |
|---|---|
| 6月1日〜12月31日 | 一括徴収は本人の申出による。申出がなければ普通徴収へ切り替わる |
| 1月1日〜4月30日 | 5月分までの残額を最後の給与から一括徴収する(残額が支給額を超える場合を除く) |
9月末退職は前者に当たるため、申出のない人から一括徴収してはいけません。全員から引くと9月の手取りが想定より大きく減ります。逆に3月末退職者を普通徴収へ流すと、義務づけられた一括徴収を漏らしたことになります。退職の時期で処理が反転する点が、年間を通した住民税の流れの中でも間違いやすい箇所です。年度単位の動きは令和8年度の住民税、6月給与で確認すべき4点を参照してください。
所得税は、年の中途で退職した人は原則として年末調整の対象になりません(所得税法第190条)。死亡退職や、12月に支給期の到来する給与を受けた後の退職などが例外です。9月末退職者の最後の給与は扶養控除等申告書に基づき甲欄で計算し、年末調整はせず、退職の日以後1か月以内に源泉徴収票を交付します(所得税法第226条第1項)。
5. 機械で検出できる範囲を決める
退職月の処理は、退職日と資格取得日、控除方式、支給日が揃っていれば判定式で書けます。私たちが自動検出しているのは次の範囲です。
| 検出項目 | 判定の根拠 |
|---|---|
| 月末退職の保険料もれ | 退職日の翌日が属する月と、控除した保険料の対象月の不一致 |
| 同月得喪の見落とし | 資格取得日と退職日が同一月 |
| 住民税の一括徴収の要否 | 退職月が1〜4月か6〜12月かの区分と、一括徴収の申出の有無 |
| 二重控除・控除漏れ | 最後の給与の控除月数と、控除方式(当月/翌月)の整合 |
| 源泉徴収票の交付期限 | 退職日から1か月を超えた未交付 |
判定できないのは、退職日そのものの決め方です。月末とその前日のどちらにするかは、本人の希望、有給の残数、社会保険の切り替え先で決まります。決め方は人が扱い、決まった後の月の対応は機械が検算する——この線引きの考え方は「AIの精度が不安」を解消するガードレール設計入門で整理しました。
9月末までにやること
- 9月に退職予定の全員の退職日を確認し、月末退職と月末前日退職を分ける
- 控除方式(当月/翌月)と最後の支給日を突き合わせ、控除する保険料の対象月を1人ずつ決める
- 住民税の残額を計算し、一括徴収の申出を9月の給与計算の締切前に回収する
- 入社月に退職した人を抽出し、健康保険と厚生年金で別に処理する
- 源泉徴収票の交付予定日を退職日から1か月以内で確定させる
2の突き合わせを飛ばすと、控除月数の誤りが最後の給与に出ます。退職者は在職者と違い、翌月に調整する余地がありません。誤りに気づいた時点で本人へ連絡し、振込か返金で精算する作業が発生します。
退職月の処理は、判定ルールが法令で決まっているのに、月の対応を1段ずらすだけで金額が変わる仕事です。件数が増える時期こそ、目視ではなく計算で確かめる工程が効きます。品質をどう担保するかは給与計算BPOの品質はどう担保する?AI検証プロセスが変える精度管理の新常識にまとめています。
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