人事評価にAIを組み込む相談が増えています。評価コメントの下書き、評価のばらつきの検出、過去データからの傾向分析。技術的にはどれも実装できます。
ただし、実装できることと、実装してよいことは別です。人事評価は、AIを入れる場所を一つ間違えると、制度そのものが機能しなくなります。当社が評価システムを設計するときに置いている線引きを、理由とあわせて書きます。
使う場面は3つに分かれる
人事評価にAIが関わりうる場面は、大きく3つです。
- 被評価者が自己評価を入力する場面
- 評価者が評価を付け、コメントを書く場面
- 評価が確定した後、集計・分析し、育成につなげる場面
この3つは、AIを入れたときの副作用がまったく違います。同じ「人事評価のAI活用」という言葉でくくると、判断を誤ります。
1の場面ではAIを介在させない
当社の設計原則は、自己評価の入力段階にAIの補助を置かないというものです。下書きの生成も、書いた文章の推敲提案も出しません。
理由は、自己評価が評価制度における一次情報だからです。本人が自分の仕事をどう捉えているか、何を成果と考え、何を課題と認識しているか。ここに現れる言葉の選び方や粒度そのものが、評価者が読み取るべき情報になります。
AIが下書きを出すと、この情報が失われます。生成された文章は整っていて、破綻がなく、そして全員分が似た構造になります。「主体的に取り組み、成果を上げることができました」という文が100人分並んだとき、評価者はそこから何も読み取れません。文章の質は上がり、情報量は下がります。
推敲提案も同じです。書いた文をAIに整えさせると、本人が最初に選んだ言葉が消えます。言い淀みや、うまく言葉にできていない部分にこそ、本人が引っかかっている論点が出ていることがあります。
2の場面では候補提示までを許容する
評価者側は事情が違います。評価者は複数人を評価するため、評価の一貫性や、記載漏れの検出に機械の支援が効きます。
許容できるのは、材料の提示までです。
- 期初に設定した目標と、実際に記録された行動ログを並べて表示する
- 同一評価者の過去の評価分布を示し、今回の分布と比較する
- 評価の根拠が書かれていない項目を検出して指摘する
いずれも、評価者が見落としを減らすための材料です。「この人はB評価が妥当です」という結論をAIに出させることはしません。評価は労働条件に直結する意思決定であり、根拠を人が説明できる状態を保つ必要があります。
材料の提示と結論の生成をどこで切るかは、AI活用全般に共通する設計の分かれ目です。AI時代の人事担当者に求められる「意思決定力」とはでも同じ論点を扱っています。
3の場面ではAIを積極的に使う
評価が確定した後は、制約が緩みます。評価の結果を動かす余地がもうないためです。
ここでAIが担えるのは、育成に向けた提案です。
- 継続すべき強みを、評価コメントの記述から抽出して本人に示す
- 次期に挑戦する余地のある領域を、現在の評価分布から提示する
- キャリアの選択肢と、それぞれに必要な学習項目を対応づける
本人へのフィードバックを充実させる方向にAIを使うぶんには、評価の公正性を損ないません。むしろ、評価者が一人ひとりに割ける時間の制約を、ここで補えます。
設計に落とすと3つの実装になる
原則を画面と仕組みに落とすと、次の形になります。
入力画面にAI機能を置かない。 自己評価の入力欄には、生成ボタンも推敲ボタンも配置しません。使えるようにしておいて「使わないでください」と運用でお願いする形は取りません。押せるボタンは押されます。
AIの関与を記録に残す。 評価プロセスのどの段階で、どのAIが、どのデータを参照して何を出力したかをログに残します。評価に不服が出た場合、根拠を遡って説明できる状態にしておく必要があります。
評価対象者に事前に知らせる。 AIが評価プロセスのどこに関わっているかを、評価が始まる前に対象者へ通知します。事後に説明すると、隠していたという受け取られ方をします。
3つ目は、海外の規制動向とも整合します。EUのAI規則では、雇用や労働者管理に用いるAIシステムを高リスクに分類し、労働者への事前通知、人による最終判断の確保、ログの保存、決定理由の説明可能性を求めています。日本の法令が同じ内容を要求しているわけではありませんが、設計の基準としては参照する価値があります。
まとめ
人事評価へのAI活用は、「使うか使わないか」ではなく「どの場面で使うか」で決まります。自己評価の入力段階では本人の言葉を残し、評価者には材料を提示するにとどめ、評価確定後の育成提案では積極的に使う。
この線引きを置かずにAIを入れると、文章はきれいになり、評価に必要な情報は失われます。制度の目的が「差を見つけて処遇と育成に反映すること」である以上、差を消す方向に働く支援は入れないほうがよい、という判断です。
AIの出力を最終結論にせず、人が根拠を確認する構造については「AIの精度が不安」を解消するガードレール設計入門もあわせてご覧ください。
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